官能小説 家庭内盗撮の妄想

官能小説

 

恥辱の通過儀礼(1)

― 恋におちて ―



 こちらに来て、もう一年・・・。美子は、無我夢中で過ごした日々を思い出す。生まれてからずっと住んだ町を出て、引越しを初体験したのが去年の春。新幹線なら片道2時間と少し。しかし、親戚も知人もいないこの地方に来ることに、両親は当初、猛反対だった。

「学校も就職も、家から通えるところを選んできたのに、どうして今さら一人暮らしを始めるんだ?」
 短大2年の夏、一旦は地元近くに内定していた就職先を断り、見知らぬ土地で働くと言い出した時の父の言葉だ。

 娘を目の届かない所に出すのが心配だという気持ちも、分からないではない。しかし彼女には、どうしてもしたい事があった。
「私は、踊りを続けたいの。お父さん、お願い」
「それは、ここだって出来るだろう。むしろ、団体の数は多いじゃないか」

 確かにそうだ。しかし、数ヶ月前にひとつの衝撃的なダンスを見てから、どうしてもその人に教わりたくなった。娘はその時のインパクトと、自分の望む道を熱心に話したが、父は聞く耳持たずで、半ばケンカ別れのような形で家を出て来たのだった。




 あれから一年。美子は、彼女に衝撃を与えた踊りの主、神碕康子が主宰する舞踏家集団「ダンシング・ミューズ」に所属している。そして、この春から、指導者も兼ねる「特別クラス」に編入された。

 美子がテレビで見たダンスは、東北のある県が主催して毎年行っているモダンダンスのコンクールでのものだった。個人の踊り、いわゆるソロを対象とした大会で、康子はグランプリを取った。

 美子自身は、小さい頃からクラシック・バレエを習い、高校からはモダンダンスを始めた。住んでいたのが、環境・情報の両面で文化的に恵まれた地域だったこともあり、上手い踊り手、有名な先生の名前には、かなり詳しい方だった。

 だが、その大会以前に、『神碕康子』という名前を耳にしたことはなかった。ほぼ無名だったダンサーが、いきなり現れて優勝をさらっていったことになる。確かに技術面も優れてはいたが、何よりも踊りが作り出す空間の雰囲気が、一種異様だった。

 ダンサーは舞台で、実に様々なことを考えながら踊っている。指先は伸びてるか? 次のターンは、タメを十分に利かせなくては。床が思ったより滑りやすいようだ、といった具合に、重要な事もそうでない事も、次々と意識に上ってくるのが普通だ。

 無論、ある程度は多角的に気を配ってないと、とんでもない失敗をしかねないことを、ダンス経験の長い美子は知っている。だからこそ、あの踊りに愕然としたのだ。外界を意識することなく、完全に表現すべきテーマしか頭にないかのような、康子の踊りに。

 笑顔や表情による表現は皆無で、あたかも目が見えていないようでさえあった。しかし、体のこなしは限りなく優雅で、年齢を超越した妖艶さにあふれていた。魂が魅せられる踊り。そう踊れるためになら、悪魔に魂を売ってもいいと思わせるダンス。

 父親は、まだ完全には許してくれていない。だが、彼女が努力していることは、知ってくれている。先日届いた手紙に、母がそう書いて来ていた。
「頑固な娘で、ごめんね」と、美子は心の中で父に謝った。




 美子の勤め先は、この地方都市に本社のある中堅企業で、所属は総務部。給与は安い。だが、残業がほとんどない。仕事内容は、最初は社内のこまごまとした雑務ばかりだったが、この春から社員の勤怠や有休の管理も、一部任されるようになっている。

 水色の表紙に「昭和62年」と書かれた紙ファイルを、ラックから取り出す。コンピュータ管理が一般化する前のことで、有給や勤怠管理は、紙ベースでしている。日々の実績を一覧表に記入し、それを後から集計するというやり方だ。

 定時が5時半。夕方から、練習や講師としてのレッスンがある日は、時間的な余裕はほとんどない。だから、昼休みを切りつめたりして、間違いなく仕事がその時刻に終わるようにしているが、まれに急な仕事が発生することもある。

「すみません。お先に失礼します」
 この日は特に突発的な仕事もなく、同僚に挨拶して部屋を出たところで、長谷川宣彦とすれ違った。
「踊り、今からかい?」

 長谷川は、4歳年上で設計部の所属だ。その口調に、咎めるようなニュアンスをかすかに感じたが、美子は気づかない振りをした。
「そうです。お先に上がらせていただきます」

 そう答えて脇を通り抜けようとした時、軽く腕をつかまれた。
「この頃、休みの日も全然つき合ってくれないじゃないか?」
 美子は、ちらりと総務部のドアを振り返った。こんな場面を人に見られるのは嫌だ。幸い自分の後からは誰も出てきていない。

 長谷川とは、彼の熱心な誘いにほだされて、何度か食事やコンサートに一緒に行ったことがある。無口で面白味がなく、背が低くて服装も野暮ったい。美子の側に交際しているという意識はないが、どうも相手の感じ方は違うようだ。

 やんわりと手をほどき、彼女は相手を傷つけまいと微笑んだ。
「前にお話したように、ダンスの講師をすることになって、それが週末にもあるんです」
 入社時点で、会社から許可を得ている。やましいことではない。

「ごめんなさい。私、急ぐので失礼します」
 一礼して、その場を去った。特に長谷川を嫌いだというのではないが、今はもっと興味ある男性がいる。社屋を出て地下鉄の駅に向かいながら、彼女はその人のことを考え始めた。




 美子の興味の対象 ―― それは、神碕祐一だ。彼は、特別クラスの練習にはほとんど同席している。ビデオカメラで練習風景を撮っておき、編集したテープをメンバーに配布する。美子もそれを受取り、振りやフォームのチェックに役立てていた。

 祐一の研究テーマが何なのか、美子はよく知らない。だから今度、尋ねてみようと思う。しかし、それが何であるにしろ、練習の世話が直接に役立っているようには思えない。母親を積極的に手助けする彼を、偉いなと感じている。

 美子は、自分の容姿にそれほど自信がなかったし、相手が先生の息子さんということもあって、最初はかなり距離を感じていた。その遠慮とよそよそしさを取り去ったのが、一ヶ月ほど前、つまり梅雨に入った頃の休日の、ある出来事だった。

 その日、彼女はいつも行く本屋に立ち寄った。注文しておいた本を受け取り、雑誌を何冊か立ち読みした後で帰ろうとして、傘立てに自分の傘がないのに気づいた。書店内にいたのは20分くらい。その間に盗まれたのだろう。

 家まで、約300メートルある。走って帰ることも考えたが、受け取った書籍が高価なモダンダンスの専門書だったので、それを濡らしたくはなかった。傘を売っている店も、近くにはない。どうしよう。その時、後ろから聞き覚えのある声がした。

「あれっ? 椎名さんじゃないですか?」
 振り向くと、祐一がいつも通りの笑顔で、本を手に立っている。
「ああ、神碕さん。こんにちは」
 美子も、少し緊張して笑顔を返す。

「買い物ですか?」
 祐一の腕には、彼自身の傘の柄が握られていた。私も、ずっと手に持っていればよかったと思ったが、後の祭だ。
「ええ、注文していた本が来たと連絡があったので、取りに来たんですが・・・」

 祐一は手にしていた本を書棚に返して、こちらに歩いて来る。そこは道路地図の棚だった。
「何の本を買ったんですか? ダンス関係?」
 書名を言うと、勉強熱心ですねと誉めてくれた。

「ところで、傘をどうかしたんですか?」
 すぐ後ろだったら、探っている音を聞かれたのだろう。
「立ち読みの間に、誰かが持って行ってしまったようで・・・」
「ああ、そりゃいけませんね。どんな傘ですか?」

 無駄とは思いつつ、特徴を教える。祐一は、傘をかき分けて探してくれたが、やはり見つからない。
「ないなぁ。やっぱ、盗られたのかな。じゃ、ぼくがお送りしますよ」
 そう言ってくれないかなという期待も、美子には少しだけあった。だが、実際にそう言われると、どぎまぎしてしまう。

「そんな。お忙しいのに、ご迷惑でしょう?」
「いや、今日は暇ですから。歩きですけど、いいですか? 今、車をちょっと修理に出してて」
「え、あの銀色の・・・」

 車種の名前を知らない美子は、そんな表現になる。
「そうです。縦列駐車をとちって、ドアの下の方をガリガリと」
 修理代に真っ青ですよと、祐一は笑った。光の加減だろうか、まっすぐに見つめてくる瞳が深い鳶色に映った。

「ふたりで一つの傘になるけど、いいですか? 相合傘の相手として、ぼくでは物足りないかも知れませんが・・・」
「え、そんな、物足りないだなんて・・・」
 頬を染めた美子の側に寄り添い、祐一はもう一度、爽やかな笑みを見せた。

「行きましょう。ぼくは、特に買う本もないですから」
「はあ・・・、ありがとうございます」
 促されて出入り口に向かう。ひさしの下で傘を差し掛けられた時、祐一の腕が美子の肩に軽く触れた。

「あ、ごめんなさい」
 はっとして離れ、こちらを気遣ってくれる。その折り目正しい態度に、美子は好感を持った。祐一は、オーデコロンでもつけているのだろうか。嗅いだことのない種類の、甘い香りがする。

 二人は肩を並べて、商店街の中を歩いてゆく。何度か互いの腕が軽く触れ合ったが、もうどちらも何も言わない。
「もし、お時間があれば・・・お茶でもいかがですか?」
 少ししてから、意を決したという口調で祐一がそう切り出した。

 経験豊富な女だったら、誰でもそう言って誘うんでしょ、と言いたくなるような展開だが、美子は顔を赤らめてうつむいただけだった。
「はい・・・」
 祐一の顔に、一瞬だけ薄情な印象の微笑みが浮かんだ。




 祐一が案内した喫茶店は、地下街の中にあった。全体照明は仄暗く、テーブルの上のキャンドルが、二人だけの空間を演出するという、ロマンチックな造りの店。広めのフロアにいる客のほとんどが、若いカップルたちだ。

 そこでの会話を思い出すと、美子は赤面してしまう。自分の事をしゃべりまくった気がする。彼はとても聞き上手で、出身地から小さい頃の話、ダンスを始めたきっかけ、踊りに対する考え方等を巧みな相づちと質問で引き出していった。

「そうですか。母のコンクールのダンスを見てねぇ。確かに、あの踊りはいい出来だったと好評なんです。椎名さんは、あのダンスのどこに惹かれました?」
 美子にとっては、その時の印象を語ること自体が喜びだったので、すらすらと言葉が出る。話題の振り方が絶妙だった。

 気がつくと、飲み物一杯だけで2時間以上も話し込んでいた。店を出て、再び肩を並べて地下街を歩き、地上に出た時には、雨はもう上がっていた。
「あの・・・また会ってくれますよね・・・個人的に」
 少し気後れがちな様子で、祐一が尋ねてきた。

「はい、喜んで」
 美子は、祐一の吸い込まれそうな目を真っ直ぐに見てめて、そう答えた。臆病な彼女も、相手が好意を持ってくれていると実感できた。こんなに自分を分かってくれる人は、他にいないと感じる。

「ちょっと気が早いけど・・・美子さんって呼んでもいいですか? 二人きりの時は」
「ミーコでいいです。よくからかわれましたから、その呼び方で」
「あ、わかった。冗談は・・・」
「「ヨシコさん!」」

 二人は声を合わせて笑った。通行人が振り返って見て行く。
「じゃ、ぼくのことは祐一と呼んでくれますか?」
 美子は照れながら、その名を小さく口にしてみた。祐一が満足そうに微笑む。

 自宅の電話番号を教え合い、二人は手を振って別れた。美子にとって、こんなに急速に他人と親しくなった経験は初めてだ。それだけに運命を感じずにはいられない。去り際に、祐一のコロンが不意に強く香った。




 ―― 心地よいまどろみの中の回想が、地下鉄の揺れで途切れた。どうやら、座席でうたた寝していたようだ。駅に着き、ドアが開く。アミ棚に乗せておいた大き目のバッグを、よいしょと肩に掛ける。洗濯した練習着一式と、バスタオル等が入っている。

 美子にとって、踊りは大きな歓びだ。母親に勧めでバレエを始めて間もない頃は、レッスンに通うのが苦痛だった時期もあるが、上手くなってゆく自分を実感できるようになってからは、練習すること自体が嬉しい。

 加えて、今は練習場で祐一に会えるのも楽しみだ。4月に初めて姿を見て、親しく口をきき始めたてまだ1ヶ月。美子は祐一に対して、ほとんど隠し事がないし、しようとも思わない。これだけ心を許せる相手がいる自分は、幸せ者だと思う。

 着替えを済ませ、レオタード姿でスタジオに入る。それに気づいた祐一が、他のメンバーにわからないように、控えめな笑顔を向けてくる。美子もそれに微笑みを返す。二人だけの秘め事という感じがする、この瞬間が美子は好きだ。

 同じ新人である竹下由真が、その美子の表情をじっと観察していた。彼女とは去年まで別々の場所で指導を受けていたので、親しいとは言えない。他の新人たちとは割に打ち解けて話せるが、由真は美子のことをかなり否定的に見ているようだ。

 練習では、既にパート分けが出来ているダンスについて、出番ごとに振り付けがなされてゆく。主宰者である康子の指導に特徴的なのは、ターンやジャンプの技術面よりも、むしろ踊っている最中の意識の持ち方だった。

「・・・あなたたちは美しい。今のままでも十分に。でも、もっともっと素晴らしいダンスを踊れるようになる・・・」
「・・・常に自分をどう魅せるかを意識しなさい! 女としての自分が男性の目にどう映るかを、考えるんじゃなくて、感じるの・・・」

「・・・恥じらいは、とても大切。視線に晒されているという意識が、動作や表情の端々に現れ、それが観客の心を惹きつける・・・」
「・・・神々の御前で、自分の舞をささげる ―― そう思って踊りなさい。その先に、自分自身が神だと感じる領域がある・・・」

 呪文のように、リフレインされるフレーズ。この指導法について、県の舞踏家協会や、モダンダンスの全国組織が否定的な見方をしているのは、よく知られている。曰く、「観念的にすぎる」「男に媚びを売る踊り」「芸術の何たるかを履き違えている」・・・。

 しかし、神碕康子には、間違いなく人を魅了するダンスがあり、メンバーは皆、そのダンスを自分のものにしたくて集まっている。だから、多少の奇行に感じることも、割に抵抗なく受け入れる精神構造になっていると言えた。

 祐一が、練習の様子をビデオを撮っている。そのファインダー越しの視線を感じて、美子の体が熱くなる。彼の視線が胸の膨らみを舐め、円やかな尻の曲線をかすめ、Y字バランスの形に開いた股間を這い回る。それがたまらなく心地よい。

「私だけを見つめて! 他の女なんか見ないで」
 心の中で、思わずそう叫んでいる。彼の前でならどんな姿だって踊れる。裸でだって、大きく開脚した股の間にある、ぬめった女の唇を、さらに指で広げて見せてあげる・・・。

 思わず、足が止まった。え? 今のは何? まさか私がそんな淫らなことを・・・。
「椎名さん、何してるの。ぼんやりしない!」
 先生の叱責が、すかさず飛んでくる。

「すみません。もう一度、お願いします」
 リアルな映像が、まだ脳裏に残っていた。全裸で秘部を隠そうともせず、むしろ見せつけるように踊る自分 ―― こんな嫌らしいこと、私が考えるはずない。彼女は頭を振って、その想いを消し去った。




 約2時間半の練習が終わり、新人の四人が前に呼ばれた。神碕先生は、美子たち一人一人の目を、正面から見据えて話し始めた。

「あなた方と先輩たちの踊りを比べた時、技術面は大きく違わないかも知れない。一番大きいのは、本当の意味で『自分の底』を他者に見られ、そこで『羞恥を美に昇華させる経験』を積んでいるかいないかの違いなの」

 何となく分かるような気がする。だけど、その壁を乗り越えるにはどうすればいいのだろう?
「よって、今年も去年と同じく、このレオタードで踊る練習をします」
 手にしたピンクのレオタードが示された。

「見ての通り、とても薄い素材ですし、色も淡い。体の線が完全に露わになります」
 いや、体の線だけでは済まないだろう。肌に貼りついたそれは、もっと小さな体の凹凸も、すっかり見せてしまうはずだ。

「タイツもウォーマーもつけず、この下にサポーターだけ穿いて踊ってもらいます」
「本当に、そんな恥ずかしい格好でですか!?」
 信じられないという顔をして、由真が問い返す。

「嫌なら、無理にとは言いません。でも、この特別クラスの人は実行して来ました。彼女たちは、それで踊った時の感覚を元に、『本物の魅せるダンス』を身につけていったのですから」

 康子の声には、凛とした迫力がある。芸術のためだ。決して淫らなことではない。そう思おうとするが、胸が高鳴って仕方がない。
「あの・・・どなたが、それを見るんでしょうか?」
 四人の中では地味な印象の高橋という子が、おずおずと尋ねた。

「どういう意味ですか?」
「・・・あの・・・神碕祐一さんは、その場にいらっしゃるんですか?」
 美子にも彼女の言いたいことがわかった。男性の前で、そんな格好で踊れるはずがない。しかし、答えは残酷なものだった。

「ええ。恥じらいを体感するのが目的ですから、男性の視線は不可欠です。だから、部外者ではなく、スタッフに立ち会ってもらうわけです。だいたい、息子はそんな目でダンサーを見るような子ではありませんよ」
 狂ってる。そう思う一方で、何だろう、この体が熱くなる感覚は。

「来週の土曜日に、各自のソロパートを踊ってもらいます。まだ、ソロがついてない人は、小人数の自分のパートを。初めての人たちは、それまでによく慣らしておくように。今日は皆さん、お疲れ様でした。では、解散」

 更衣室に引き上げてゆく先輩たち。ふと由真の方を見ると、彼女も途方にくれた表情をしている。しかし、こちらの視線に気がつくと、負けないわよというように目に力を込めて見返してから、部屋を出て行った。祐一も、いつの間にかいなくなっている。

 美子は、次第に大きくなる自分の心臓の音を聞きながら、一人ぼっちで立ち尽くしていた。




 祐一との恋におちてしまった美子。彼の目の前で、美子は裸同然の姿で踊れるのか? この続きは「恥辱の通過儀礼(2)」でお楽しみください。  




このストーリーはフィクションです。登場する団体、人物等は架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。のぞき、盗撮、強姦、輪姦などは犯罪です。絶対に真似をしないでください。