官能小説 家庭内盗撮の妄想

官能小説

 

風を待つ渚(4)

― 十四歳、恥じらいのミニスカート ―



「うん、大丈夫だと思う。ウチさ、両親が法事で今夜いないから」
 電話の向こうで、奈美子がおっとりと答えた。普段から、彼女は頼まれたら嫌と言えないところがある。同じ一人っ子同士だが、何事にも物怖じしない望美とは対照的に、受け身でおとなしい性格だ。

「良かったぁ。じゃ、練習が終わったら、おやつ買ってくね」
 学校の側にあるボックスタイプの公衆電話から、望美は掛けている。父親の宏之は娘に甘く、大抵のおねだりは聞いてくれるが、携帯電話だけは首を縦に振ろうとしない。

 娘がケータイを持つと、交友関係を把握できなくなる ── 望美が説得しようとしても、父の主張は最終的にはそこに行き着く。心配する気持ちも分からなくはない。だが、友達の何割かが持っているのに、自分がお預けなのは悔しいし、何かと不便でもあった。

 望美は、母親の方が自分の気持ちを理解してくれていると、ずっと感じていた。また、女らしく美しい母を小さい頃から大好きだった。にも関わらず、彼女は家庭教師と不倫していたのだ。生々しく淫靡な密会現場を目撃したことは、心に強い衝撃と不信感を与えた。

 そして、昨晩。思い余ってした告白を春木に拒絶された事が、母への反発を決定的なものにした。先生に自分の想いのすべてを伝えたかったのに、紅茶とケーキを持って来た由布子に邪魔されて、望美にしてみれば不完全燃焼で終わる形になってしまった。

 母が憎らしくてたまらない。顔も見たくない。できればずっと。だが、現実的にそれは無理なので、まず今夜、無断外泊することにした。うんと心配すればいいんだ ── こうした感情が、親に対する甘えに他ならないのだが、望美自身はその事に気づいていない。




 泊まる先が決まり、望美は正直なところほっとした。外泊するにも、盛り場での夜明かしは絶対に嫌だ。電話ボックスを出る。夏の陽差しが、真上から照りつける。校門をくぐり、テニス部の部室へ向かった。早めに家を出てきたので、練習が始まるにはかなり間があった。

 望美たちの通う中学校は、緩やかな坂の上にある。周囲には一戸建ての住宅地が広がり、昼間のこの時間には人影もまばらだ。坂を歩いて登ってゆく望美は、セーラー服を着ている。夏休み期間中でも、私服での登校は禁止するという校則があるからだ。

 白い上着はやや生地が薄いのか、ブラジャーの輪郭がうっすらと透けて見える。下は濃紺のプリーツスカート。オーソドックスなデザインを、いかにセンスよく着こなすか。ファッションに目覚め始めた女生徒の間では、それが重要なテーマの一つでもある。

 夏服は冬服よりも、少し上着の丈を詰めて着る。垢抜けた感じになるよう、スカートは膝上10センチか、もう少し短いくらいに裾上げしている。靴下は白のハイソックスで、適度に筋肉のついた伸びやかな脚に、よく似合っていた。

 ショートカットの髪は、前回から母親と同じ美容師さんにお願いしている。似たような髪型でも、カットテクニック次第で印象が変わるのに驚いた。望美自身とても気に入ったし、写真をカット例として店に飾りたいと、その時に店長から申し出があった程だ。

「お母さんもお綺麗だけど、望美ちゃんってホントに可愛いよね」
 写真を撮り終えた後で、切ってくれた美容師もそう言ってきた。
「ありがとうございます。お世辞でも嬉しい」
 鏡の中のお姉さんに、望美ははにかんだ笑顔を向けた。

「お世辞じゃないって。望美ちゃん、モデルとかしてみる気ない?」
「え? モデルって、ヘアカットのですか?」
 美容師が新しいヘアスタイルに挑む時の練習台として、そういう役割の人が求められることは、テレビ番組で見て望美も知っていた。

「そうね。そっちもお願いできれば嬉しいけど、ちょっと違うの。モデルプロダクションの知り合いから、お店に来るお客様に可愛い女の子がいたら、ぜひ紹介してくれって頼まれてて」
 彼女の年齢は、二十代後半。職業柄か、服装のセンスはいい。

「ファッション雑誌とか、テレビ・コマーシャル系の仕事が主なのよ、そこ。歴史もまずまずあるし、いかがわしい事務所とかじゃなくて、ちゃんとした会社だから心配しないで」
 美容師は、待合スペースからファッション雑誌を持ってきて、望美の目の前に広げて見せた。

「この子とそっちの子が所属モデル。あと、気鋭塾って知ってるかな? あのテレビCMで、生徒役をしてる子たちもなんだって」
 気鋭塾は全国ネットの進学塾だ。最近のCMでは、中学生の男女六人が公園の芝生の上で、自分の将来の夢を語っている。

 画面の中のその子たちは、実に生き生きとしていた。互いの夢に耳を傾け合っている時の表情が、演技とは思えないほど自然だ。その熱気と瞳の輝きを、素早く切り替わるカメラワークで追っていた。自分がその中に入るのを想像してみたが、まるで現実感がない。

「すごいなぁ。でも、私とは縁のない世界な気がする」
「そりゃね、オーディションとかも大変らしいし、みんなが人気モデルになれるとは限らない。でも、やってみる価値はあるかなと思うけど」
「興味はあるけど、パパとママが何て言うか・・・」

 もともと写真を撮られるのは好きだ。一人っ子なので、成長の記録を写したアルバムやビデオは、家の中にそれこそ山ほどある。気取ってポーズをつけ、皆に注目してもらう。おしゃれをして、可愛いと褒められる。それは、望美にとって大きな喜びのひとつでもある。

 しかし、初対面の相手からの誘いだ。なんだか怖い気もする。
「あ。でも、もちろん無理にとは言わないから。望美ちゃんがモデルに興味を感じて、ご両親のOKが取れたら連絡ちょうだいね」
 こちらの表情を読んだのか、美容師はそう言った。そして、名刺にモデルプロダクションの名前をメモ書きして渡してくれた。

 モデルなど、別世界の存在だと思っていた。からかわれたのかも知れない。そうは思っても、やはり心が弾んだ。
 望美自身は、できればやってみたかった。両親にどう切り出したものか考えていた矢先に、母の変態的な不倫現場を覗き見てしまい、それどころではなくなってしまったのだが。

 プレハブ造りの部室が並んでいるのは、校門とは運動場を挟んで反対側だ。昼時というのもあってか、グラウンドには誰もいない。体育館を通り過ぎようとした時、中からボールの弾む音がした。バレー部員が早めに出てきて、自己練でもしているのだろう。

 部室は鍵が閉まっていた。望美が一番乗りらしい。南京錠の数字を合わせてドアを開けると、部屋のむっとした熱気が押し寄せてくる。素肌に絡みつくその感触が、自宅の暑苦しい廊下から覗き見た、母と家庭教師の濃厚な交わりを、望美に改めて思い出させた。




「春には春の、夏には夏の愛し方、愛され方がある」
 昨夜からずっと、春木の言葉が頭の中でリフレインしている。夢中で抱きついた時、「よし、望み通りに縛ってやる」と言われていたら、望美は却って失望していたに違いない。大切に思ってくれている、それは十分に伝わってきた。

 彼のまなざしは真剣で、言葉にも嘘はないように聞こえた。しかし、望美の想いは、きっぱりと拒絶された。望美がまだ子どもだから、恋愛対象にできないと言われたのだ。
 確かに年齢は十歳以上離れているが、本人の努力ではどうにもならない事を理由にされても、納得できる筈がない。

 望美はショルダーバッグを開け、練習着を取り出した。窓のカーテンが閉じているのを確かめてから、制服の上着を脱いだ。白いスポーツブラに包まれた、ほころび始めたばかりの胸。女として開花する前のふくらみは、瑞々しくさわやかな色香を宿している。

 だが、望美自身はこの小さな胸が嫌いだ。少し前までは気にならなかった肉体的な幼さが、春木と交わる母の裸体を見てからは、明らかなコンプレックスに変わった。
 母のように成熟した肉体を持つ女性でなければ、彼の恋愛対象にならないのか。ならば、一刻も早く大人になりたい。

 白いポロシャツを頭からかぶって着る。プリーツスカートの下に、これも純白のスコートを穿く。腰元にあるホックを外して、スカートを足元から抜き取った。それを丁寧に畳んでバッグに仕舞いながら、望美の想いは、またしてもあのシーンに戻ってゆく。

 M字開脚に縛られた母の下肢。春木が掻いたあぐらの上に、裸で後ろ向きに抱え上げられている。
 男の手が、たわわに熟した乳房を鷲づかみにする。淫らに口を開けた陰唇が、春木の怒張を呑み込み、ゆったりとした抜き挿しのリズムに合わせて、甘え声が淫らなよがり泣きに変わってゆく。

 豊かな乳房が、麻縄で絞り出されていた。鈍色に色づく先端の突起を、男の指がこりこりと揉み潰す。見ているだけで、乳首がむず痒くなるその動き。望美の右手は、いつしかブラジャーの下にもぐり込み、胸元の可憐なさくらんぼを指先でつまんでいた。

 春木に抱かれたい ── その願いの狂おしさ。昨夜の告白で、望美自身が気づくまいとしていた願望に、火がついてしまった。
 二人の変態的な情交さえ目撃しなければ、彼女は今も早春のまどろみの中に身を置けていたかも知れない。だが、少女のいる季節は、一気に初夏に向かって移ろいを始めていた。

 春木の手のひらの感触を、二の腕の肌が覚えている。抱きとめてくれた時、布越しに男の匂いがした胸板に、頬を、そして自分の裸の胸を直に押しつけたくてたまらない。
 妄想の中の母は、いつの間にか望美自身に代わっていた。少女は、背後からペニスを挿入される自分を想像する。

 処女である望美には、男を体内に受け入れることが、どんな感覚を生むのかわからない。相手が春木であれば、伝え聞く破瓜の痛みも苦にならないだろうと思える。しかし、その相手は彼でなくてはならない。他の男に抱かれることなど、考えられない。

 母親と自分では、バストのサイズ差以上に、女としての魅力に大きな開きがあるのではないか。望美は無意識に、その恐れを感じていた。だから、背伸びをしようとする。そして、母に強い憎しみを感じる。だが、彼女はそれが反発の根源だと気づかない。

 春木に自分のすべてを見て欲しい。そして愛して欲しい。だが、子どものままでは相手にされないのもわかっている。情事を見られた事を知って、家にはもう来ないと春木は言った。急がなくては、早く自分が変わらなくてはと、望美の焦る気持ちが募ってゆく。




 フリル付きのアンダースコートを、バッグから取り出した。色はこれも白で、ショーツタイプのものだ。練習はスパッツ着用という中学も多いが、本番に平常心で臨むためにも試合と同じ格好で練習する、それがこの学校で長年指導を続けているコーチの方針だ。

 その時、一つの思いつきが浮かんだ。大学生や社会人は、アンダースコートの下にショーツは着けないらしい ── 望美は前に、先輩からそう聞いたことがある。同じ事をすれば、大人の女に近づけるのではないか。誰にも気づかれずに済む、ささやかな冒険だ。

 イメージするだけで胸が締めつけられ、呼吸が苦しくなった。再び母の姿が浮かんだ。女陰を奥まで男の視線に晒し、見られる快感に悦びの声をあげていた。テニスをする時、母はきっとショーツなど穿いていないに違いない。なら、自分だってしてみせる。

 望美は、ショーツの脇布に親指を掛けた。胸が高鳴り、更に呼吸が荒くなる。しばらくためらってから、ついに意を決して太ももを滑らせ、足首から抜き取った。部室という共有の空間で、スコートの下に何も着けずにいると、とても変な感じがする。

 部活の最中に、何て恥ずかしい事をしようとしてるのだろう。誰かに気づかれたら、どうするつもりなのか? 恐怖と背徳感を意識することで、心はざわめきを増してゆく。華奢な体を貫くおののきこそが、倒錯した官能への第一歩であることを、少女はまだ知らずにいる。

 全裸で厳しく緊縛され、愛される喜びを全身で表現していた母。その淫らな映像を振り払うように、アンダースコートを素早く引き上げた。少し硬めの股布が、陰部に直に当たる。いつもと違うその感触に、処女の女陰は、既に妖しい熱を帯び始めていた。




 練習はいつも通りに激しく、そして厳しかった。炎天下、望美はボールを懸命に追った。受験を控えた三年生が先日の大会で引退し、秋季大会に向けて新レギュラーがもうすぐ選ばれようとしている。
 部員は女子だけで、男子テニス部はない。地区大会では常勝に近く、硬式経験者も入部してくるので、競争は実に熾烈だ。

 途中に何度か休憩を挟んで、4時間近い練習を終えた頃には疲労がピークに達し、のどもカラカラに渇いていた。親友の絵里とは、ダブルスのパートナーという間柄でもある。練習試合で失敗した連携について話しながら、皆と一緒に部室へと引き上げてきた。

「ねえ、今日も帰りにマックに寄ってかない?」
 ロッカーは隣り同士だ。扉を開けた時、絵里が囁き声で誘ってきた。
「あ、ごめん。このあと、ちょっと用事があるんだ」
 小声で断ると、絵里が浮かない顔をした。

「相談があったんだけどなぁ。用があるなら、仕方ないか」
 ユニフォームのシャツを脱いで、スポーツタオルで上半身の汗をぬぐう。絵里は今年の冬から、三年生の男の子とつき合っている。初々しく純なカップルなので、見ていて実に微笑ましい。

「相談って彼のことでしょ。最近、会えてるの?」
「全然。受験勉強が大変なんだって。つき合ってる感じがしないし」
 そう答えて、絵里は小さくため息をついた。
「菅野さん、私立受けるんだっけ? 大変だよね」

 恋人の名字を口にされ、絵里は慌てた様子で周囲に視線を走らせた。幸い別の子の声にかぶって、誰も聞いてはいなかったようだ。
「望美こそ、例の家庭教師の先生とはどうなの? 今日はどことなくさ、君に女を感じるんだけど。さては、何か進展があったろ?」

 ひそひそ話を続けながらも、絵里は既にあらかた着替えを済ませていた。自分も早く着替えなくてはと思い、スカートの下からスコートを脱いだ時、アンダースコートを直穿きしていたことを思い出した。望美の心臓がトクンと跳ねた。

 練習中は、ずっと意識していた。いつもと違う肌触りと、皮膚から離れている訳でもないのに、どこかしらスースーする心細い感覚。透けてなどいない、誰にも気づかれる筈がないと信じていながらも、もしも誰かに見つかったらと考えると、気が気ではなかった。

 変な背伸びから、馬鹿げた行動をしている自覚はあった。恥知らずな事を、コートに持ち込んだ後ろめたさも。一方で、みんなより先に大人の女になる、そんな気負いと誇らしさもあった。なのに、練習が終わってほっとして、何故か意識から抜け落ちていた。

「・・・うん・・・別にないよ、進展なんか・・・」
 どうしよう。このままアンダースコートを脱がずに帰ろうとしたら、やはり変に思われるだろうか?
「望美、どうしたの? マジで先生のこと、考えてる?」

 皆が着替え中なら、あるいは気づかないかも知れない。でも、着替えが終わっていない二年生は、自分ともう一人くらいだ。普通、練習で汗だくになったアンダースコートを、穿いたまま帰る子はいない。待たせれば待たせるだけ、変に思われ始める確率は高くなる。

 胸の鼓動が速くなる。望美は、自分の軽はずみな行いを悔いた。だが、もう遅い。意を決して脇布に親指を差し込む。裾がめくれ上がり過ぎて、スカートの中が覗けてしまわないように気をつけながら、下に向かってアンダースコートを滑らせた。

 足首を通すには、脚を交互に上げるか、前にかがみ込まなくてはならない。膝を上げ過ぎると、前の裾が心配だし、上半身を前に倒せば、お尻が丸出しになりそうで怖い。同性とはいえ、そんな姿を見られてしまえば、後からどんな噂を立てられるかわからない。

 心臓は、まるで早鐘のようだ。やっとの思いで脱ぎ終えた。素早くそれを拾い上げた時、股布の裏側が目が行った。じっとりと濡れていた。透明なその液体は、汗よりも粘り気がありそうに見えた。望美は、顔を真っ赤にして、バッグのファスナーを閉めた。




「忘れ物は無いね? じゃ、行こっか。お先に失礼しまーす」
 絵里の大きな声に続いて、望美も小声で、お先にと呟いた。頬が火照って仕方がない。同じ学年の子や後輩から、一斉に「お疲れでしたー」「っしたー」と、あいさつが返ってくる。

「ね、ホントにどうしちゃったの? 望美ったら、さっきから変だよ」
 二人は肩を並べて、校門に向かって歩き始めた。絵里になら、アンダースコート直穿きの冒険を打ち明けられる気がする。でも、ひょっとして軽蔑されるのではないかと思うと、なかなか話し出せない。

「うん・・・今日は特に暑かったから、マジでバテちゃったのかも」
 多分、まだ顔は真っ赤なのだろう。行きがかりとはいえ、スカートの下に何も穿かずに、外に出てしまった。下半身の心もとなさを意識すると、自然に太ももをすり合わせるような歩き方になる。

「その用事って、一人で大丈夫? 私、つき合ってあげようか?」
 絵里が心配そうに、顔を覗き込んでくる。望美が泊まりたかったのは、本当は絵里の家だった。奈美子とも親しいが、絵里は特別だと感じている。頼りがいがあるし、同性の誰からもから好かれている。

 絵里には表裏がない。優しくて、さっぱりした気性の持ち主だ。背はすらりと高く、170センチ近い。同じショートカットでも、女の子らしい印象の望美とは対照的に、ボーイッシュな雰囲気。小学校1年で同じクラスになって以来、ずっと二人は親友だ。

 一方の奈美子は、中学校からのつき合いというのもあるが、自分の意見というものがないように見えて、望美はイライラすることが多い。絵里とは尊敬し合える関係だ。しかし、母親同士も親しいので、泊まった事が筒抜けになってしまう。無断外泊先には適さない。

「うん、気にしないで。ちょっと寄る所があるだけだから」
 そう答えながらも、下半身が気に掛かって仕方がない。スカートの短さを、こんなに意識するのは初めてだ。すれ違うバスケ部やサッカー部の男子が、みんな太ももの辺りを見ている気がする。

 そうだ、トイレに寄ると言えば、気づかれずにショーツを穿ける ── やっと思いついた口実を、望美が口にしかけた時だった。
「おーい、麻生、西崎! ちょっと待ってくれよ」
 癖のあるくぐもった声が、二人の後ろから追いかけてきた。

 振り向かなくてもわかる。同じクラスの小林という男子だ。
「ポートレート撮らせてくれるって例の約束、今日これからどう?」
 馴れ馴れしい誘いの言葉とともに、ストロボが焚かれた。その音と光に、前を歩いていた男生徒たちが、何事かと振り返る。

 二人とも、そんな約束をした覚えなどない。余りにしつこいので、以前に絵里がやんわりと断ったのを、本人が一方的に約束と呼んでいるだけのこと。不潔な感じのする長髪で、しかもかなり太っている。いつもデジカメを首から下げ、校内で写真のネタを探し回っていた。

 秋に三年生が引退したら、写真部の部長になると言っているが、そう思っているのは本人だけ。人望は全くない。視聴覚教室のパソコンで美少女のヌード画像を漁っているとか、取材を口実に女生徒を素人投稿用の被写体にしているとか、悪い噂には事欠かない。

「そんな約束、いつした? もう、いい加減にしてよね」
 絵里が、うんざりだという顔つきで言った。望美は、相手の注意を惹かないように、さりげなくスカートの裾を手で押さえる。
「いいじゃないか。タイプは違うけどさ、二人ともマジ可愛いんだし」

 小林は悪びれる様子もない。今度は地面に片膝をつき、ローアングルからレンズを向けてきた。望美は、思わず二三歩あとずさる。
「だけど、麻生、今日は妙に色っぽくない? コートの中での動きも、いつも以上に女を感じたし。実は、この俺を挑発してたとか?」

 自信過剰な態度が不気味だ。しかも、今日の練習をずっと見られていたのかと思うと、背中を悪寒が走った。しかし、コートの周りに妖しい人影はなかった。写真部員であっても、コーチの目の前で練習風景を撮影するには、正当な理由と手続きが必要だ。

「どこから覗いてたの? 先生に言いつけてやるから」
 ショーツを穿いていなかった事を、小林に気づかれている筈がない。自分にそう言い聞かせつつ、望美は相手をなじった。
「さあね。いい写真を撮り続けたいから、お前らには教えない」

 テニスコートは敷地の端にある。おおかた近くのマンションの上の方か、あるいは屋上から、望遠レンズで狙ってみたとかだろう。
「なに考えてんの、この変態! マジでキモいよ、あんた」
 顔をしかめた絵里の声にも、嫌悪感が滲み出している。

 周囲を見回すと、男子生徒数名のグループが、少し離れた辺りで興味深げにこちらの様子を窺っていた。望美は普段から男子に見つめられるのには慣れているが、今は早くこの場から立ち去りたい。こう注目されてしまっては、校舎内のトイレに行くのも難しい。

「絵里、もういいよ。ほっといて行こう、早く」
 運動場の方から、バスケ部顧問の男性教師がやってくるのが見えた。悪いのは変態カメラ小僧の小林だが、つかまれば長引く。
 スカートの下に何も着けていないこの状態で、教師にあれこれと説明するハメになるのは避けたい。

「待ってくれ。今日が都合悪いなら、いつだったらいいんだ?」
 望美は取り合わず、校門の方に体を捻って、素早く絵里の手をとった。その瞬間を待っていたかのように、シャッター音が連続して響く。二人は、思わず足を止めて後ろを見た。

「惜しいなぁ。どうせなら、もっと勢いよく回ってくれよ」
 太った体を折り曲げた低い姿勢で、小林がニタリと笑った。気味悪がった二人が逃げようとして体を捻り、遠心力でスカートの裾が翻る瞬間を、最初から狙っていたのに違いない。

「どうして・・・どうして、そんな事するの? 信じられない・・・」
 望美は激しく動揺しながら、大人の女の真似をしようとした事を本気で後悔していた。でも、大丈夫。あれくらいターンで、スカートの中が見えてしまう筈がない。必死で自分にそう言い聞かせる。

 ともかく、今は一刻も早くこの場を離れなくては。教師が、こちらの騒ぎに気づいたらしい。動悸が高まり、気持ちが焦る。
「あんた、そのうち退学になるよ。こんな事ばっかしてると」
 絵里がそう言い捨て、二人は校門の方向に駆け出した。




 春木に、大人の女として認められたい。その想いが、望美を更なる窮地に追い込んでゆく。この続きは、「風を待つ渚(5)」でどうぞ。




このストーリーはフィクションです。登場人物・団体等はすべて架空のものです。