官能小説 家庭内盗撮の妄想

官能小説

 

風を待つ渚(6)

― 美少女の生尻を垣間見て ―



「ホント使えねぇヤツだな、あいつ。何だよ、あのブスは・・・」
 根本徹は、さっきから何度も同じ愚痴を繰り返している。仲間の一人が、いい女を紹介してくれると言うから行ってみれば、勘弁してくれという感じの女だった。寝るだけが目的だとしても、あそこまでレベルを落としたくはないという相手だ。

 徹には、奈美子という恋人がいる。去年の秋、出身中学の文化祭に行った。暇だったからだし、可愛い子を見に行くくらいのつもりだったが、体育館の通用口でよそ見をしていて、女生徒にぶつかった。よろめいたその女の子を、徹は手を伸ばして支えた。

「あっ、ごめんなさい」
 悪いのは徹の方だったが、女生徒はすぐに謝った。手には、名前のわからない黒い楽器を持っている。人がよさそうな顔立ちのその少女が、楠田奈美子だった。

 極めつけの美少女ではない。大きな目が、少しばかり垂れている。太っているという程ではないが、ややぽっちゃりとした体つき。見た目どおりに人当たりがよく、きっぱりと断ることが出来ない性質で、徹はそこにつけ込んで、強引につき合うことを承知させた。

 その後も渋る奈美子をしつこく誘って、やっと家に来させたのが今年の連休明けだ。なのに、彼女は友達を連れてきた。二人きりになったら、一気に押し倒してとか妄想していたが、そのプランを完全に潰された。何を考えているんだと、頭に来た。

 しかし、冷静になってみると、つき合っていると思っているのは、自分だけのような気もしてくる。顔はニキビだらけだし、背は低いし、クラスの女の子からは、目つきが蛇みたいで怖いとか言われてるらしい。でも、好きなものはしょうがないじゃないかとも思う。

 手を握ったことはあるが、キスはその後も未経験。無理やり迫ると、それで関係が壊れてしまいそうなのが怖い。友だちにグチったら、性欲解消に都合のいい女を紹介してやるよという話になり、喜んで出掛けてみたら、とんだ当て外れだったという訳だ。

 女を紹介してくれたその仲間は、自分の彼女とそのブスと四人で、これから遊びに行こうぜと言ってきたが、徹はいい加減な理由をつけてごまかし、待ち合わせ場所の喫茶店を出てきた。西日が背中に当たって、じっとりと汗を掻きはじめている。

「あーあ、俺も兄貴みたいに、無茶ができればいいのかもなぁ」
 二つ年上の泰司は、徹の通っている高校より、ずっとガラの悪い私立の学校を、たった半年で退学させられていた。理由は、上級生のワルたちと乱闘し、相手数名に重傷を負わせたからだという。

 泰司がキレると、手が着けられない。その後、一時期は暴走族に入って、中心的な役をしていたらしい。ヤらせてくれる女には不自由していないようで、徹は自慢話をよく聞かされる。そして、お前はまだ童貞なのかと、事あるごとにバカにされている。

 徹の家は薬局だ。店を夜遅くまで開けているが、経営は苦しいらしい。両親は、兄が立ち直って、家業を手伝って欲しいような事を徹にはこぼすが、本人には怖くて言えない。
 一度など、父親が説教しようとして、肋骨にヒビを入れられた。それ以来、事実上の放任状態になっている。

「兄貴はいいよなぁ。マジ、無敵だもんなー」
 あそこまで無茶苦茶で強引な生き方ができたら、きっと女なんていくらでもモノにできるに違いない。うらやましくは感じるものの、自分にそこまでの根性がないことも、徹はよくわかっている。




 夕暮れまでには、まだ間があるようだ。両親は店だろう。家で一人エロ動画を見て、オナニーでもするか。そう思っていた徹の横を、二人乗りの自転車が追い越していった。
 自分がいた中学のセーラー服だ。そう思った瞬間、立ち乗りしていた娘のスカートの裾が、ふわりと翻った。

「おっ、すげぇ!」
 ヒュウゥーッ ── 反射的に口笛を吹いていた。陽に焼けた健康的な太ももは、つけ根近くで透き通るような白へと変わる。
 スカートの中を吹き抜けた風が、更にその上の柔肌を徹に見せてくれたのだ。それは、ぷるんとした瑞々しい裸の尻だった。

 まさか! 徹は目を疑った。肌色のパンツだったとか? いや、違う。じゃ、Tバックか。だけど、今のは中学生だろ。普通、そんなもん穿くかよ。なら、何だ? 自転車は、遠ざかってゆく。慌てて周囲を見回したが、誰も少女の尻を目撃した様子はない。

 徹は走り出した。さっきまでの鬱な気分は、一瞬で消し飛んでいる。勃起したペニスがつっかえて、思わず前傾姿勢になる。引き締まった少女の生尻。その白さは、普段ネットで漁って来ては見ている美少女画像よりも生々しく、そして美しかった。

「それにしても、何で穿いてないんだ? いや待て。ああいうのに限って、すげぇブスだったりして・・・」
 呟きながら走る。かなり向こうで、自転車が停まるのが見えた。後ろの娘がそこで降りて、漕いでいた方が手を振って走り去る。

 自転車が見えなくなると、降りた方の少女は商店街の中に入っていった。その横顔に、何となく見覚えがある気がする。ひょっとして、奈美子が家に連れてきた女の子じゃなかったか? 徹は息を切らしながら、商店街の入り口にたどり着いた。

 アーケードの下、30メートルほど向こうに、その子の後ろ姿が見えた。スカート丈はかなり短い。その裾から、形のよい脚がすらりと伸びている。さっき垣間見た裸の尻が、網膜に焼きついて離れない。本当にこの女、パンツを穿いていないのだろうか?

 徹はダボダボのジーンズなので、それほど目立たずに済むものの、股間はさっきから臨戦態勢だ。ポケットに手を突っ込んで、圧迫されていたペニスの位置を調節した。そのままゆっくりとした歩調で、20メートルほど距離を開けて、少女の後ろをついて行く。

 女の子は、スカートの裾を軽く押さえるようにしては、時おり後ろを振り返った。そのたびに徹は、何気ない様子で目を逸らす。どこまで行くのだろう。ずっとだと、変に思われるかな。そう思った時、彼女は小さなケーキ屋に入った。老夫婦が二人でやっている店だ。

 やっぱり、あの時の娘だ。確か、望美といったような。三人の中では、この娘が正統派の美少女、奈美子はいわゆる癒し系で、名前のわからないもう一人は、ボーイッシュな容姿だった記憶がある。
 徹の好みとしては奈美子が一番だが、こういうスレンダー・ボディの美少女も悪くない。

 望美は、ショーケースを覗き込んでいた。前かがみの姿勢なので、スカートの裾が後ろに持ち上がっている。尻肉すれすれまで、太ももが露出していた。普段ならそれ程でもないのだが、さっきスカートの中身を見ているだけに、むくむくと妄想が広がる。

 少女は、店のおばさんと平気な顔で話している。もしかして、普段からノーパンに慣れてるのか? 中学生のくせに変態かよ。なのに、めったにいないほど可愛い。徹は人待ち顔を装い、向かい側の洋服屋の前から、少女の様子を横目で窺い続ける。

 しばらくして、望美が出てきた。一旦は店先から見えなくなったので、どうしたのかと思ったが、ケーキの箱を手に持って、さっき来た道を戻ってゆく。心なしか、頬が紅潮しているようでもある。
 徹は、再び跡をつけ始めた。少女は大通りを渡り、向こう岸をしばらく歩いた後、住宅街へと続く横道に折れた。

 商店街の中とは違い、同じ方向に歩く人はそれほど多くない。だが、前を行く望美は、ケーキ屋に入るまでのおどおどした様子が消えて、ほとんど後ろを振り返らずに歩いてゆく。それでも徹は用心して、距離をかなり開けて尾行した。

 この方角だとひょっとしてと思っていると、果たして望美の目的地は奈美子の家だった。数日前に電話した時に、今夜は両親が法事に行って留守だというのを聞いていた。
 ラッキーだと思った。二人で歌いに出ないかと誘ったが、断られた。無論、徹の本当の狙いはカラオケの後にあったのだが。

 友だちが泊まりたいと言ってきたから、奈美子は自分の誘いを断ったに違いない。徹は、望美の訪問をそう解釈した。いきなり最後までなんて考えてはいないが、ガードの堅い彼女との距離を縮める絶好の機会だったのに、この女が邪魔しやがったのか。

 クラスの女子からは、三白眼が怖いとか、目つきがいやらしいとか噂される徹だが、自分では奈美子への想いは純粋だと思っている。キスを奪って、胸を触って、やがてセックスへ。両親がいない夜はまたとないチャンスなのに、この女のせいですべてが台無しだ。

「ちっくしょう。ふざけんじゃねーぞ」
 独り言が口をついて出た。呼んでもないのに奈美子について来たばかりか、嫌がらせに見せたエロ動画を、作りモノだと決めつけた女。
 あんたなんて、どうせ童貞の癖に。キモチ悪いんだよ。まっすぐにこちらを睨んでいた望美の視線が、そう言っている気がした。

 こいつは、ノーパンで自転車に二人乗りして、通行人に尻を見せるような変態だ。見た目は可愛いが、実はエロゲ「下級生」の橘真由美のような、淫乱キャラなんだ。中学生なのにセックスの経験が豊富で、犯されたら喜ぶようなヤリマに違いない。

 玄関の中に、望美が消えた。奈美子の家の造りは熟知している。招かれたことはないが、夜中に周囲をうろついた事は何度もある。
 部屋が二階なのは、聞き出していた。あのカーテンの向こうに下着姿の彼女がいるのかと見上げたことも、一度や二度ではない。ストーカーとして通い詰めた細い路地の隅に、徹は身を潜めた。

 その道の奥には、空き家が一軒あるだけ。明かりはついておらず、人の気配もない。徹は中腰になって、生垣の一部が薄くなっている辺りに近寄った。ここは徹自身が以前に、ちょっと見にはわからないように枝を間引き、中が透けて見えるようにしておいた部分だ。

 葉の間から中庭がよく見えた。その向うに家の外壁があり、こちら向きに引き違いの窓がある。これまで何度か覗き見たところでは、その部屋は浴室の筈だ。曇りガラスで中は見えない。覗き中にその窓が開くことは、これまで一度もなかった。

 夕闇が迫っていた。徹が生垣越しに覗き始めて、しばらくしてから風呂場の電灯が点った。オナニーでいつもイメージする、奈美子の裸体が脳裏に浮かぶ。無性に声が聞きたくなった。風呂から出て来た彼女が、裸で受話器を持つところを想像した。

 徹は、生垣から離れた。歩きながら携帯電話を取り出す。ワンタッチダイヤルに登録してある番号を発信する。
「もしもし、楠田ですが」
 回線の向こうですぐに受話器が上がり、奈美子の声がした。

「徹だけど、今夜はやっぱりダメなのかな?」
「うん・・・」
 電話の向うで奈美子が、小さな声で答える。
「誰かが泊まりに来てて、それで遊びに出れないとかなのか?」
「・・・そうなの・・・」

 くそ、やっぱりそうか。言葉少なに答える様子から、この電話を望美に聞かせたがっていないのが伝わって来た。
「俺、奈美子に今夜、絶対に会いたかったんだ。だけど、それじゃ無理だな。また、この次にするよ」
「・・・はい。じゃあ、切るね」

 電話は切れた。奈美子に対しては必死で感情を抑えたが、本当は悔しくてしかたがない。素っ気ない態度は、いつも通りだ。このところ、ずっとこの調子。好かれていないのは、徹にも自覚がある。
 ならいっそ、力ずくでとも思う。しかし、一線を越えるにはためらいがあったし、ひとりでそんな大それた事が出来る気もしない。

 大きなチャンスを前に何も出来ない苛立たしさを感じながら、徹は路地の奥に戻った。生垣の隙間から、再び中を覗き込む。
「あっ!」
 驚きの声を、何とか呑み込んだ。浴室の窓が開いていた。

 白い人影が見えた。望美だ。彼女は湯船に体を沈めた状態で、ぼんやりと空を見ている。湯で体が火照っているせいだろうか、小麦色に焼けた頬から首筋にかけてが、ほんのりと桜色に染まっている。徹の動悸が、一気に早くなった。

 徹の位置からでは、肩から上しか見えない。二人の距離は、10メートルくらいだ。望美は小顔で目が大きい。ショートカットの髪の先が少し濡れている。頬からあごにかけてのラインが、とても綺麗だ。徹がそう思った時、不意にそのまなざしが下に向けられた。

 ヤバい! 徹はとっさに、葉陰に顔を隠した。見つかった訳ではないと思うが、確信は無い。心臓が更に高鳴る。耳をそばだて、気配を探った。窓の方から水音がした。徹は我慢できなくなって、生垣が薄くなっている方に、再び体を動かした。

 望美が、浴槽の縁に腰掛けていた。再び夕空を仰いで、何か物思いにふけっているようだ。裸体を覆うものは、何もない。小麦色に焼けた手足や首筋との対比で余計にそう見えるのか、さして明るくない白熱灯の下でも、胸元の白さは際立っていた。

 少女の胸のふくらみは、まだほころび初めたばかり。乳輪も乳首も、ほんのりと淡い色をしている。ほっそりとしていながら、女らしさの萌芽を肌の下に隠した半熟の肉体。ウェストはきゅっと引き締まり、下腹部の翳りは聖なるスリットが透けて見えるほどに薄い。

 望美がまだヴァージンで、女として目覚めていないからこそできる、無防備なその姿。しかし、徹の目には、自分を誘っている媚態として映る。奈美子は、これまで入浴中に窓など開けたことはなかった。なのに、望美は堂々とヌードを見せつけている。

 徹のペニスは、先程からずっと勃起し通しだ。奈美子の裸を想像してオナニーする時も、こんなにまで硬くならない。
 望美を汚してやりたい。エロ動画の件で、恥をかかされた事への報復の意味もある。しかし、それ以上にこの生意気な美少女が陵辱される姿を見たいと、男の歪んだ欲望が叫んでいた。

 そして何より、こいつ自身が犯されたいと願ってるさ。だから、こうして裸を見せつけたり、ノーパンでミニスカを穿いて、男たちを挑発してやがるんだ。顔は可愛いけど淫乱で変態で、きっと援交だってしてるだろう。望美なら、犯すことに何のためらいもない。

 生垣の陰で息を殺し、徹は少女の一糸まとわぬヌードを視姦し続ける。エロゲの強姦シーンが、その裸体にオーバーラップする。彼の頭の中では、自己中心的な解釈による妄想が、そして、それまで抑圧してきた思春期の性衝動が、とめどない暴走を始めていた。




「じゃ、ここでちょっと待っててくれ。すぐ戻るから」
 そう言うと、春木は少し離れた場所にある由布子の家へと急いだ。携帯電話で連絡を取りながら、シンと合流したのが約10分前。ざっと状況は説明した。シンは無表情で頷きながら、それを聞いていた。

 シンの身長は、190センチ近くある。170センチちょっとの春木からすると、見上げて話す形になる。年齢は、春木よりも少し下。レーサーレプリカのバイクを側に停め、黒皮のライディングスーツを着ている。顔はやや面長で、ピンと立った短髪が印象的だ。

 シンは日本人だ。この呼び名は愛称でもあるが、こまし屋としてのコードネームというか、お互いを呼ぶ際の符丁でもある。案件別に日野真治、新川高志、神谷毅などという名前を使い分けていた。つまり、シンと呼ばれてもおかしくない偽名を使う訳だ。

 必要に応じて、免許証などの身分証明書もそれぞれの名前で偽造する。同様に、春木自身の名前も偽名のひとつだ。彼のコードネームはハル。他には、久村晴之、坂崎幸治なども使い分けているが、春木淳也と名乗る機会が最も多い。

 チャイムを鳴らすと、ドアはすぐに開いた。玄関の中に体を滑り込ませた春木に、由布子がいきなり抱きついて来た。
「どうしよう。どこに行ったか、誰も知らないって言うの」
 声ばかりか、体まで震えている。春木は彼女を強く抱きしめた。

「友だちの家とかは、全部電話してみたの?」
「ええ。望美が一番親しいのが絵里ちゃんって子で、私もお母さんをよく知っているのね。真っ先にそこへ電話したら・・・」
 絵里の話では、駅方面に用事があるからというので、自転車に乗せて行ったとのこと。それが、午後4時前後だという。

 望美の行方が知れないと言うと、二人はとても心配してくれた。絵里から聞く限りでは、特に変な様子は無かったらしい。駅の近くが目的地なのか、駅近辺のどこかに寄って別の場所に行ったのか、あるいは駅から電車に乗ったのかはわからない。

 春木との関係を、望美に感づかれた ── 由布子にはそう思えてならない。それが原因の家出なのかとも思うが、万が一事故や事件に巻き込まれていたら、取り返しのつかないことになる。午後9時を回ったところで、そう決心して事情を話して探すことにしたのだ。

 絵里は、望美があれから部室に戻ったとは考えられないと言っていたが、念のためとテニス部顧問の自宅に掛けてみることにした。奥さんが出て、友人と呑みに出ていると答えた。教えてもらった携帯番号にも電話してみたが、電源を切っているらしくつながらない。

 クラスの緊急連絡網に記された電話番号や、絵里が教えてくれたテニス部の友だちの家にも、次々に電話してみた。しかし、行方を知っている子はいなかった。
「本当に、誰も何にも知らなかった?」
「そうなの。ただ一軒だけ、両親がお留守らしいお宅があって・・・」

 奈美子という子が直接電話に出たのだが、望美が行っていないか訊いた時に、答えが返ってくるまでに微妙な間があったという。
「望美は来ていません。そう言った口調も、どこか硬い気がしたし」
 由布子の言葉に、春木はそこだと直感した。

「その家の住所って、わかるかな?」
「え? 望美は、そこにいるってこと?」
「わからない。でも、何かしら引っ掛かりがあったのは、その家だけだったんだろう。とにかく、そこを当たってみるよ」

 こまし屋の秘密を守る目的も無論あるが、何より本人の無事を確認したい。自分が望美の告白を突っぱねたのは、間違いではなかった筈だ。しかし、一方で彼女を深く傷つけてしまった自覚もある。
「これから行くの? でも、もう遅いわ」
 時刻は午後11時を回っている。

「わかってる。だけど、ぼくたちの事を感づかれた結果の家出なら、一刻も早く誤解を解きたいし、そうしないと危険だと思う」
「誤解・・・なのよね。私たちのことって、あの子の目にはどう映るのかしら? 最低の母親だと思われても仕方ないけど」

 由布子は目を伏せたまま、春木に体を預けてきた。
「でも、私はあなたに出会えて、本当の意味で女になれた気がするの。心から感謝してるわ。でも、こうなってみて・・・」
 人妻の甘やかな体臭が、春木の鼻腔をくすぐる。

「望美が気づいていても、いなくても、これ以上あなたに抱かれ続けちゃいけない。そう思うの・・・ごめんなさい」
 彼女は、既に母親の顔に戻っていた。春木は心の中で、大きく安堵のため息をつく。由布子の方から別れを切り出してくれて、助かったというのが本音だ。

「わかったよ。ぼくがいくら好きでも、あなたは届かないひとだもの。それに、とても失礼な言い方だけど、ぼくはどこか母の面影を、あなたに重ねていたような気がする」
 気を悪くするかなとも思ったが、由布子はほっとした表情を浮かべた。その変わり身の早さに、春木は一抹の寂しさを感じた。

「最後にお願いがあるの。もう一度だけ、キスして・・・」
 女のしたたかさとも言えるだろうし、母や妻という帰るべき位置、果たすべき役割を持っているということでもあるだろう。己れの慕情にケリをつけようとするかのように、由布子が唇をぶつけてきた。




「すまん、待たせたな」
 約5分後、春木は玄関を出て、シンの待つ暗がりに戻ってきた。
「どうだ、行き先はわかりそうか?」
「ああ、それらしい所は見つけた。行ってみるしかない」

 春木の説明を、シンは黙って聞いていたが、
「その家に泊まっているとして、どう説得するかだな」
 感情のこもらない口調で、そう呟いた。
「口ふさぎには、本人にも秘密を持たせるしかないな。女にとって人に言えない秘密といえば、犯っちまうのが一番だろうけど」

 春木は、シンを睨みつけた。冗談じゃない。
「そんな事できるか! クライアントのお嬢さんだぞ」
「依頼主は父親だっけ。知られたら、ただじゃすまないなぁ。じゃ、やっぱりそれしかないね。自主的に黙っててもらうには」

 あんないい子に、そんな酷いことができるものか。しかも、相手は中学生だ。シンは、春木の内心を見透かしたように続ける。
「お前が出来ないんだったら、俺がしてやるぞ。孕ませたりとか、怪我させたりとか、ヘマはしないから安心しろ」

「シン、もういい。とにかく余計な口を出さないでくれ」
 強く釘を刺すと、相手はひょいと肩をすくめた。
「はいはい。お前は情が深いからな。でも、どうやって俺たちこまし屋の秘密を守るんだろうね、実際のところ」

 春木は憮然とした面持ちで、車に乗り込んだ。シンがヘルメットをかぶってバイクにまたがるのを待って、車を発進させる。由布子が調べてくれた住所をインプットしたカーナビの指示に従い、奈美子の家へと向かう。不意に、由布子の唇の感触が蘇ってきた。

 名残を惜しむかのように、長く情熱的な口づけだった。その後で由布子は、心配だから自分もついてゆくと言ったが、望美から電話連絡があるかもしれないからと残らせた。警察への捜索願は、奈美子の家にいなかった時に、改めて考えようと言っておいた。

 シンが心配する通り、具体的な策はない。何をどこまで話していいものかも、よく整理できていない。ただ、対応が遅れれば遅れるだけ、望美の感情がもつれてしまうのは、間違いなかった。とにかく顔を合わせて、抽象的な言い方だが誠意を尽くすしかない。

 信号に引っ掛かった。奈美子の家に電話してみることにする。由布子のメモを見ながらプッシュし終わったところで、信号が青になった。
 両親が留守で、二人だけで寝てるなら、夜中に電話しても何とかなる筈だ。奈美子が出るだろうから、そこに望美が泊まっているのはわかっていると言えばいい。

 30回以上コールしたが、誰も出ない。番号を間違えたかと思い、車を一旦停めて掛け直してみた。しかし、結果は同じだった。
 二人で、外に遊びに出ているのか? それとも、ぐっすりと眠っているのだろうか。漠然とした不安が、春木の心に影を落とす。電話を切り、目的地へと急ぐことにする。

 春木の車は、何度か角を折れて進んでゆく。昔ながらの街並みのせいか、道幅が狭い。奈美子の家の前を通り過ぎてから、駐車しても差し支えなさそうな場所を探して、バイクと車を停めた。電話に誰も出ないことを告げると、シンの顔にも緊張が走った。

 家の前に引き返し、表札を確認した。「楠田」とある。確かにここだ。こじんまりとした二階建ての和風建築で、そう新しくはない。家の周囲を、丈の高い生垣がぐるりと取り巻いている。門の外からそっと窺うと、一階二階ともすべて明かりが消えていて真っ暗だ。

 もう一度、電話を掛けてみる。耳元の小さなスピーカーから、二度三度と発信音が響く。耳を澄ませると、目の前の家から呼び出し音がする。だが、誰も出ない。玄関にも灯の点る気配はない。よほど深く眠っているのだろうか。闇の中で電話は鳴り続ける。

 辺りに目を配っていたシンが、周囲の家から見られていないのを確認できたのだろう、門扉を開けて中に入った。かすかに鉄の軋む音がした。シンは足を忍ばせて、中庭の方に回ってゆく。電話のベルは鳴り続ける。春木の胸騒ぎが、次第に大きくなってゆく。




 軽い気持ちでした望美の『冒険』が、意外な形で波紋を広げてゆく。望美はどうしてしまったのか? そして奈美子は? この続きは、「風を待つ渚(7)」でどうぞ。




このストーリーはフィクションです。登場人物・団体等はすべて架空のものです。