官能小説 家庭内盗撮の妄想

官能小説

 

風を待つ渚(8)

― アレスとクロノスの夜更け ―



 家の中から電話のベルが聞こえてくる。鳴り続けているのに、誰も出ない。春木は、ボタンを押して発信を打ち切った。
 胸騒ぎが膨らんでゆく。玄関のチャイムを鳴らしてみようか。いたずら電話に迷惑していて、深夜の電話を無視しているという可能性もなくはないが。

 思い悩みながら、玄関の引き戸の前に立った。その時、庭の方からシンが足音を忍ばせて戻って来た。
「中の様子が、どうもおかしい。かなりヤバい感じがするぞ」
 玄関脇の外灯の光が、シンの張り詰めた表情を照らし出す。

「どういう風に変なんだ? 女の子たちはいたのか?」
「レースのカーテン越しに見たんだが、リビングらしき部屋の明かりは消えていた。その奥に和室があるらしくて、ベルが鳴っている最中に襖が開いた。そして、中から男が顔を出した」

 男だって? 春木の背筋に強い緊張が走る。
「逆光で顔は見えなかった。だが、かなり大柄な男だ。彼女たち以外に、少なくとも一人は家の中にいることになる」
 予定を変えて、両親が帰ってきたのだろうか? いや、それならば、先ほどの電話には出る筈だ。

「ハル、どうする? 決めるのはお前だぞ」
 春木自身が招いた不始末だ。自分で判断して、事を収めなくてはならない。もしも、中にいるのが親や親戚だったとしたら、騒ぎを大きくすることは、却って自分たちの首を絞めることになる。

 しかし、シンが見たという人影が部外者だとしたら、望美たちの身に何かが起きている可能性が高い。こまし屋としての役割の自覚と、少女の身を気遣う一人の男としての想いが、春木の心と頭の中で互いに激しくせめぎ合う。

 勘違いだった時は、どう言い訳すればいい? いや、そんな事は何とでもなる。ここで保身に走って彼女の身に何かあったら、自分は絶対に後悔する。それだけは間違いない。
「中に入ろう。鍵を開けてくれ」

 シンは軽くうなずき、ライディングスーツの尻ポケットからピッキングの道具を取り出した。扉の前に片膝をつき、鍵穴に差し込む。
 ものの十秒足らずで鍵が開いた。音を立てないように引き戸を開け、その隙間からシンが中に入った。春木も、すぐ後に続く。

 足元の土間に、男物のスニーカーとブーツが乱雑に脱ぎ捨てられていた。やはり、男が家の中にいる。しかも二人だ。
 焦る気持ちを抑えて、自分の靴を手に持った。何事もなかった時は、家の中に隠れてやり過ごす展開になるかも知れない。同じように靴を手にしたシンを従えて、春木は廊下を奥に進んだ。




「いいから、黙ってろ。こんなもん、すぐに止まる」
 声の威圧的な響きに反応したかのように、不意にベルが鳴り止んだ。静けさが戻って来た部屋の中で、金髪の大男がゆっくりとこちらを振り返った。言い知れぬ恐怖心に衝き動かされ、望美の視線は男の下半身に吸い寄せられてゆく。

 股間にそそり立つ、醜怪な男性器。それは、自宅の廊下から除き見た春木のペニスよりも、ひと回り大きいようにも見える。キノコのように開いた先端部が、禍々しくも不気味だ。望美はそのグロテスクな肉の塊から、たまらず目をそらした。

 金髪男の巨体が近づいてきた。望美の心を、激しい後悔がさいなむ。家出なんか、しようとしなければ良かった。
 春木の顔が浮かんだ。彼の前ではヴァージンなんてどうでもいいと言ったけど、こんな男たちには触られるも嫌だ。お願い、助けて。底知れぬ恐怖が、望美の心を鷲づかみにする。

「今度こそブチ込むぞ。くそっ、ゾクゾクしやがらぁ」
 M字型に緊縛された剥き出しの股間に、男の腰が割り込んでくる。望美は必死で脚を閉じようとするが、首の後ろを通した縄で両膝を括られているため、思うに任せない。どんなに暴れても、麻縄が肌に食い込むだけだ。

 自分の身に、こんな事が起きるなんて信じられない。縛られて犯されるなんて、無理やり見せられた例のエロ動画のようだ。
 男は手にしたボトルの口から、望美の股の真ん中に粘っこい液体を垂らしてきた。勃起したペニスの先で、それを乙女の肉門に塗り広げてゆく。

「どうだ、怖いか。あの時は、よくも生意気な口を利いてくれたな。俺のことをバカにするとどうなるか、これでわかったろう」
 三白眼が顔を寄せてきて、軽くほっぺたを撫でられた。望美は嗚咽を漏らしながら目を背け、嫌悪感を必死に押し殺す。

「よし、いよいよだ。すぐに気持ちよくしてやるからな」
 その言葉とともに、大男の猛り立ったモノが望美の女陰にあてがわれた。両方の膝をしっかりと押さえつけ、男は腰を前に進める。
「うぅっ!」
 下腹部の鋭い痛みに、望美の体が弓なりに反り返る。

「くそっ。何でだ。どうも上手く入らねぇ」
 男の指が、少女の小さな陰唇を、無理やり左右に掻き広げる。
「もっと濡れてりゃいいんだがな。こいつ、ヤリマの割に汁を出さなぇな。これまでの女は、縛ってやればすぐヌレヌレだったのによ。まあ、百回も突いてやりゃ、どんな女でも濡れて来るけどな」

 その数字がどれ程のものなのか、望美には想像がつかない。唯々、怖くて堪らないだけだ。
 男の顔に、淫靡な笑みが浮かんだ。もう一度、粘液を塗りつけられる。膣口の位置を見極め、男は一気に腰を突き出して来た。
「んぐうぅ!!」
 さっきの何倍も激しい痛みが、少女の背骨を突き抜けた。

「キツイな、こいつのマ○コ。まだ先っぽだけなのに、きゅきゅっと締めつけてきやがる」
 肉を軋ませ、男根が少しずつ埋め込まれてゆく。処女膜が裂ける音が、体内の骨を伝って耳に届く気がする。痛い。痛くて堪らない。

「ねぇ、あそこから血が出てるよ。こいつ、もしかして・・・」
 驚きの声を上げる三白眼。金髪男のペニスが、不意に引き抜かれた。大きく張り出した亀頭が、処女膜の裂け目に引っ掛かり、少女は更なる激痛に身をのけ反らせる。

「でも、俺はどこも痛くないぞ。てことは、こいつ、処女ってことかよ」
 髪を掴まれて、無理やり顔を引き起こされた。
「おい、ここを見てみろ。お前、ひょっとして初めてだったのか?」
 陰唇が左右にめくれ上がり、その間から赤い血がじわじわと滲み出していた。男のペニスも、赤く染まっている。

 早鐘のような心拍に合わせて、下半身から鈍痛が襲ってくる。溢れ出た血が、尻肉を伝ってシーツにしたたり落ちてゆく。
 現実の出来事だとは、どうしても思えない。二度と春木には会えない。自分には、彼に愛してもらう資格なんてない。何もかも終りだ。大粒の涙が、望美の頬をこぼれ落ちる。

「締まりがいいと思ったら、そういうことか。処女をヤるのは、俺も初めてだ。こいつはツイてやがる」
 男が頬を歪め、淫靡な笑みを浮かべた。肉棒が女陰にあてがわれ、再び肉ひだをえぐって来る。猿ぐつわの下で、望美のくぐもった悲鳴が上がった。

「いくらこいつが処女でも、これだけ血が出るってのは、兄ちゃんのがデカいからだよな。スゲェぞ、これ。ケツの方まで真っ赤だ」
 膝立ちになった金髪男が、斜め上から肉茎を打ち込んでくる。巨体の向こう側から、カメラのシャッター音が続けざまに響く。

「俺よ、ケンカの時も血ぃ見ると、やったら興奮するんだよな」
 涙で曇った視界の隅に、鬼のような男の形相が見える。
「それにしても、処女のマ○コって、こんなにキツキツなんだな」
「兄ちゃん、俺もヤりてぇ。頼むから、早く出しちゃってくれよ」
 せっつきながらも、シャッターの音は止まない。

「焦るなって。もうすぐだ。中にたっぷり出してやるからな」
 破瓜直後の牝壷に、激しいストロークが容赦なく送り込まれる。太い棒杭で、内臓まで刺し貫かれる感覚。何を中に出すというのだろう? 望美は朦朧とした意識の中で、ぼんやりと考えた。

「きっちり孕ませてやるよ。おい、意味分かってんのか、お前? 妊娠するんだよ、俺たちの子をよ。どうだ嬉しいか、おら」
 妊娠という言葉が、望美の鼓膜を撃った。戦慄が少女の体を貫く。こんな男の子どもを身籠る位なら、死んだ方がマシだ。

 処女膜が裂け切って道がついたためか、下半身は痺れたように感覚がない。望美は、きつく目を閉じた。闇の彼方に、かすかに春木の姿が見えた気がした。心の中で必死に助けを求める。だが、彼は気がついてくれない。絶望がすべてを呑み込んでゆく。

「ようし、来たぞ。奥に出してやる。おぉっ、出るぞ、出るっ・・・」
 興奮した男のおたけびが、頂上めがけて高まってゆく。律動のピッチが速まる。望美の咽から、絶望のうめき声が噴き上がる。
 その時、襖が大きな音をたてて開いた。




 いくつもの事が、連続して起きた。部屋に駆け込んできた春木が、泰司の顔面を殴りつけた。巨体が反動でのけ反った拍子に、望美の女陰から泰司のペニスが飛び出した。
 ビクンと脈動した巨根の切っ先から、精液が勢いよく飛び出す。放物線を描いたそれは、望美の顔から胸辺りに降りかかった。

「何だぁ、お前らは!」
 ぐらつきはしたものの、泰司は倒れなかった。すぐに体勢を立て直すと、両手を広げて襲い掛かってこようとする。
 すかさず、ステップバックする春木。前のめりになった泰司のこめかみを、横から踏み込んだシンの左足が鮮やかに蹴り抜いた。

「うぐぁっ!」
 完璧なカウンターだ。咽元から漏れたうめき声とともに、泰司の巨体が斜めにかしぎ、そのままの姿勢で頭から畳の上に崩れ落ちた。
 シンは格闘技全般に通じているが、特に空手とムエタイは高名なプロのトレーナーに指導を受けたこともある。

「おい、お前たちは何者なんだ! この子たちに何をした?」
 泰司は、白目を剥いて完全に失神していた。それを確認してから、シンは徹の襟首を掴んで引き寄せる。徹の顔は真っ青だ。顔をかばうようにかざした手が、恐怖にブルブルと震えている。

「望美ちゃん、大丈夫か。いま、これを外すからね」
 彼女の股間からは、尚も破瓜の血が溢れ続けている。なんて事だ。焼けつくような怒りが春木の胸を焦がす。彼は素早くジャケットを脱ぎ、それで少女の下半身を覆った。

 猿ぐつわの結び目に指を掛け、少女の口から取り去る。
「・・・私、わたし・・・うっ、ううっ!」
 緊張の糸が切れたのだろう。悲痛な慟哭が、少女の咽からこぼれた。涙で濡れた頬を、くしゃくしゃにして泣き叫ぶ。

「もう大丈夫だ。望美ちゃん、もう大丈夫だからね」
 手足を縛ってある麻縄を、順にほどいてゆく。上下を縛られ絞り出された白い胸が、視界に入ってくる。できるだけそれを見ないようにしながら、すべての拘束を解き放った。

「先生・・・私、怖かった・・・死ぬほど怖かったの・・・」
 望美が体をぶつけるようにして、抱きついて来た。華奢な手首にくっきりと残る麻縄の跡が、痛々しくて堪らない。春木は足元のタオルケットを拾って、望美の体全体を包み隠した。

 春木の胸に頬を押しつけ、泣きじゃくる望美。その体を強く抱きしめながら、彼は激しい後悔にさいなまれていた。
 まさか、こんな事件が起きていたなんて。彼女がどれだけ思いつめていたか、もっと早く気づいてやれなかったろうか。

 ポケットからハンカチを取り出し、髪に付いた精液を拭き取る。硬くこわばった望美の体。いたたまれない気持ちが、春木の胸を締めつけてくる。
 こまし屋としての都合を優先させたがために、彼女をこんな目に遭わせてしまった。そんな気がしてならない。

 部屋の反対側では、シンが立ったままで徹を締め上げている。
「お前、この子の恋人だと? なら、どうしてこんな事をする」
「だ、だって、奈美子は・・・普段からやたらガードが固くて、お、俺には何もさせてくれないから・・・」
 しゃべりながらも、上下の歯がガチガチとぶつかる。

「だから、親のいない夜に押し入って、力づくでという訳か。最低だな、お前ら。この子は、何で意識がないんだ。何をした?」
「全身麻酔の薬を吸わせて・・・眠らせただけだから・・・」
 顔を背けながら、徹が何とか答えを口にする。

「ここへは、どうやって入った? この子がお前らを入れたのか?」
「それは・・・合鍵を、もらってたから・・・」
「嘘をつくな。そんなガードが硬い子が、お前みたいな危ないヤツに合鍵を渡すか。正直に言え」

 シンが徹の襟元を捻って、ぐいっと上に持ち上げた。強制的に爪先立ちにされた徹が、更に怯えた表情になる。
「・・・ホントは、無断でコピーしてた。ああっ、殴らないで」
 弱々しい声とともに、腕で必死に顔をかばおうとする。

「この図体のデカい馬鹿は、何者だ。それとお前の名前は?」
「これは、兄ちゃん・・・です。俺は、徹・・・根本徹」
「そっちの子は、お前ら、前から知ってたのか?」
 望美の方を目で示したシンが、服の襟を更に締めつける。

「ううっ、苦しいよっ・・・は、離して・・・ください」
「さっさとしゃべれ。そしたら、下ろしてやるよ」
 シンが眼光鋭く徹の顔をにらみ、右手の拳を目の前に突きつける。徹の咽から、弱々しい悲鳴が上がった。

「今日が初めて・・・です。でも、そいつが俺を誘惑したから・・・」
「違う! あれは、そんなんじゃない。違うのっ!」
 春木の胸にすがりついている望美が、蒼白な顔をして叫んだ。思わず彼女を抱きしめる手に力を込める。

「まあいい。で、ここで撮ったのは、あのバカとお前が持っていたデジカメ1台ずつと、そこのビデオ。それだけなんだな?」
「・・・は、はい。他には、何も撮ってません」
「本当か? 無駄な嘘はつくなよ。俺にはちゃんと分かるからな」
 爪先立ちの不自由な姿勢で、徹が必死で首を縦に振る。

「よし。じゃあ、お前にはとりあえず眠っててもらおうか」
 シンが、もう片方の腕を襟元に添えた。相手を吊るし上げた姿勢から、締め技に入る。クロスさせた手を絞るようにすると、徹の脚が苦しげに何度か空を蹴り、やがて力なく垂れ下がった。

「こいつら、実に計画的だな。薬や縄まで用意して来てやがる。ちっこい方はともかく、デブは相当に場数を踏んでるし」
 シンは先ほど春木が解いた縄を拾い上げ、意識のない泰司と徹を手際よく縛り上げてゆく。

「しかし、この子も、とんでもない男を恋人にしたもんだな」
 シンがもう一枚のタオルケットを拾い上げた。それを奈美子の裸にかぶせてやりながら、苦々しげに呟く。
「ちょっと、台所で探し物してくるよ」
 ため息とともに、シンは襖を開けて部屋から出て行った。

 二人きりになった部屋の中に、少女の啜り泣きが響く。
「私、誘惑なんてしてない。あれは、あれは違うの・・・ぅうっ!」
 むせび泣きとともに、望美の頬を大粒の涙が伝い落ちる。泣き腫らしたその目が、訴えかけるように、春木を見上げてくる。
「分かってるよ。君がそんな事をする筈がない」

 少女の全身を包み込む、パイル地のタオルケット。素肌に直接触れていなくても、彼女のおののきが手のひらに伝わってくる。
「怖かったろう。もう、大丈夫だからね」
 さっきから、同じ言葉ばかり繰り返している。だが、それ以外にどう慰めていいのか分からない。

「君が家出するほど思いつめていたとは、思ってもみなかった。配慮が足らなかった。本当に済まない」
 想いを受け止めてやっていさえすれば、こうなるのを防げたのだろうか。だが、あの時の自分の判断が間違っていたとは思えない。

 どうすれば良かったのか。その答えはどこにもない。彼女の母親を抱いたのが、こまし屋の仕事だったのは確かだ。しかし、それだけの理由では春木自身が納得できない。砂を噛むようなやりきれなさを感じつつ、彼は少女を強く強く抱きしめた。




「とりあえず、この三つをお前の手で壊すんだ。バッグの中やポケットも探ったけど、どうやら記録の類はこれだけらしいから」
 シンが、金槌とドライバーを差し出した。プラスチック製のまな板の上には、デジカメが二つとビデオテープが載っている。

「わかった」
 春木は小さくうなずいて、それらを手にした。金槌を振り上げ、ビデオテープを叩き潰す。デジカメはドライバーで蓋を無理やり剥がし、メモリ部と思われる辺りを重点的に、金槌で粉砕した。

 シンが席を外してくれている間に、春木は望美に背を向けて、服を着るように言った。タンクトップやショーツは、切り刻まれていた。
 彼女は、セーラー服の上下を身につけた。そして今、魂が抜けたような虚ろな表情をして、春木の傍らに座っている。

 血に染まった股間のことは、触れずにおいた。屈辱の記憶を呼び起こすような発言は、迂闊に口には出来ない。
「よし、それでいい。見てごらん、望美ちゃん。この通り、何もなくなった。いや、最初から何もなかったんだ。いいね」
 シンが感情を抑えた低い声で、そう念を押した。

 春木は、望美の肩に手を置き、自分の方に軽く引き寄せた。されるがままに、望美は体を預けてくる。
 泣き腫らしたまぶたから、溢れ出した涙。その軌跡が、少女の頬に新たな悲しみを刻む。目を閉じて嗚咽を漏らし続ける彼女の横顔を、春木は心配そうに見守るしかない。

「ハル、ここの始末は俺に任せて、お前は早く彼女を連れてけ」
 そうだ。この家で起きた事は、奈美子の両親にも知られてはならない。明け方までに、すべての痕跡を消す必要がある。
 その一方で、強いショックを受けている望美を、この場にい続けさせる訳にもいかない。

「すまん。悪いがそうさせてもらう」
 春木はそう言って腰を浮かせかけたが、望美は動こうとしない。
「いやっ・・・私、もう家に帰れない。死んじゃいたい・・・」
 首を左右に振って、言いつのる声が狂おしい調子を帯びる。

「大丈夫だ。ぼくがついてるから、落ち着いて」
「先生だって見たでしょ。あんなヤツらにメチャメチャにされて・・・もう私の体は汚いの。ホントは・・・ホントは春木先生に・・・」
 望美は春木の胸にしがみつくようにして、激しく泣きじゃくる。

「とりあえずアパートへ行こう。今夜はウチに泊まろう、ね」
 春木の心を無力感がさいなむ。しかし、一番辛いのは望美自身だ。できる限りのことをしなくてはならない。
 シンが襖を開けて出て行った。おそらく大森に増援の電話を掛けるのだろう。その内容を、望美に聞かせる訳にはいかない。

「私、ホントにバカだ。ママに負けたくなくて、早く大人の女になりたいと思っただけなのに・・・それが、それが・・・」
「もういいよ。わかってる。わかってるから・・・」
 肩口に預けられた少女の小さな頭。春木はその重みを受け止めつつ、髪をくしけずってやることしか出来ない。

 再び襖が開き、シンが入ってきた。軽くうなずいたのは、ボスに連絡が取れたということだろう。
「二人とも、すぐにここを出るんだ。ただ、その白いセーラー服はかなり目立つ。万一、職質にでも遭ったら面倒なことになる」
 望美は性的暴行を受けている。警官が春木自身を疑うことも、十分に考えられる。

「確かにそうだな。車を家の前まで持ってこよう。シンはその間に、この残骸をまとめておいてくれ。俺のアパートで完全に分解する」
 春木は望美の体を両手で支えて、まっすぐに座らせた。その心もとなげな表情、抜け殻のような様子が見る者を不安にさせる。

「すぐ戻って来るから、ちょっとだけ待ってて」
 ここに長居しすぎては、応援のスタッフと顔を合わせることにもなりかねない。それは双方にとって、いろんな意味でまずい。春木は望美の目を見つめて、声に力を込めた。

 すがりつくようなまなざし。だが、彼女はすぐにうつむいた。
「じゃ、シン。よろしく頼む。それと、本当にありがとうな」
「わかった。でもまあ、これが俺の役だから。お前もしっかりな」
 そうだ。望美が犯されたからといって、こまし屋の秘密を守らなければならない事に、なんら変化はない。

 だが、このいたいけな少女がレイプされた原因は、元を辿れば自分のした事にある。その想いが、春木を苦しめる。彼女の心を救う事を、自分は最優先に考えるべきではないのか。
 思い悩みつつ襖を開けた。ふと振り返ると、望美は虚ろな表情で布団の上の一点を凝視していた。




 春木が出て行った。伝えたい事、訴えたい想いはあるのに、どう言葉にしていいか、望美には分からない。
 股間の疼痛は、次第に治まってきていた。しかし、肉体的な苦痛から意識がそれるに連れて、起きた事がどれほど取り返しのつかない事であるかが、重く重く心にのしかかってくる。

 望美にとって、レイプはドラマや小説の中の出来事でしかない筈だった。自分がされるなど、これまで考えたこともなかった。
 だが、それは現実に起きた。誘惑などしたつもりはないが、自分の軽率な行動が招いた結果だという自覚はある。

 ノーパンで、絵里の自転車の後ろに二人乗りをした。成り行きで仕方ない事だったとはいえ、スリルに心がときめいたのも確かだ。だが、陰部を人に見せたいとか思ったわけではない。母である由布子に、春木を取られたくない。それが一番の動機だった。

 そこに男の獣欲を掻き立てる、隙があったというのだろうか。
「望美は可愛いからな、男の人には気をつけないといけないよ。そういう短いスカートは、やめた方がいいと思うがの」
 そう言ったのは、母方の祖母だ。確か中学に入る前の春休みに、実家に泊まりに行った時だった。

「これくらいのは、友だちもみんな穿いてるよ」
 望美は笑って答えた。びっくりするようなミニスカではない。
「そういうものかも知れんがの、都会は何かと物騒だから心配になるんだよ。キズモノにされてからじゃ遅いんだからね」

 自分は、祖母の言うキズモノにされてしまったのだろうか。好きでもない男たちに縛られて、レイプされてしまったのだから。
 世のまっとうな男たちは、そんな風に穢された女を愛情の対象としては見ない。祖母はそう言っていた。だからこそ、みだりに殿方を挑発するような服装や態度をしてはならないんだと。

 取り返しのつかない過ちを、犯してしまった自分。鉛色の後悔が、津波のように望美の心に押し寄せてくる。
 ビデオテープとデジカメは、壊してもらえた。シンが言うように、証拠は何もなくなった。だけど、襲って来たあの二人は、望美の性器を見ている。自分たちのしたことを覚えている。

 人の記憶は消せない。いま自分の後ろで、デジカメの残骸を片付けているシンだって同じだ。
 そして、誰よりも春木が、彼女がレイプされた事を知っている。だらしない女、隙のある女、汚らしい女として彼に見られる。望美にとっては、それが何よりも辛い。

 大好きな春木に、大人の女として扱って欲しかった。母のように、魅力的な女性になりたかった。ただ、それだけを願っていたのに。
 だけど、それももう終わりだ。こんな汚れた自分では、誰にも愛されない。愛される資格なんてない。

 十四歳の少女が背負うには、余りに重い自責と後悔の念。絶望の闇が、彼女の心を覆い尽くす。他の誰に、どれだけ蔑まれようと構わない。だけど、春木に愛されないのなら、生きている意味がない。いっそ、汚れた自分を消し去ってしまいたい。

 その時、うつむいた視線の先で何かが光った。敷布団の端から、金属らしきものが少しだけ覗いている。
 望美は、反射的にそれに手を伸ばした。金髪男が持っていた裁ちバサミだ。ひんやりとした感触が、手のひらに伝わってくる。

 これを咽に突き立てれば、すべてが終わる筈だ。本当の意味で、何もなかったことになる。血がたくさん出るだろう。ものすごく痛いに違いない。だけど、それでもいい。両手で柄の部分をしっかりと握り、切っ先を胸の辺りで真上に向ける。

「先生、さよなら。ごめんなさい」
 低くそう呟くと、望美は腕にぐっと力を込めた。




 レイプの衝撃と、春木を永遠に失った痛みが、望美を衝動的な自殺へと追いやる。この続きは「風を待つ渚(9)」をお楽しみに。  




このストーリーはフィクションです。 登場人物・団体等はすべて架空のものです。 レイプ、輪姦、窃盗、恐喝、住居不法侵入、無修正画像・動画の日本国内における配布・閲覧等は犯罪です。絶対に真似をしないでください。


「風を待つ渚」のH度:

達した 感じた 面白い

性別:

男性  女性

ひとこと(省略可):

 

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